俺は、あの匂いが好き
団地の家の玄関やらロータリー
独特の匂いが好き。
だけど、団地に住みたいとか
大人になってから
団地は、お金がない人が住むもの
だと知ってから
住みたいとは思わなくなった。
どこか懐かしい匂いが好きなんだな
と今では思う。
団地の同級生は、もちろん
上も下も
大概は、顔見知りだから
よく缶蹴りとかサッカーとか
人数が呼ばなくても集まるし
集団が苦手な俺でも
その輪の中に入ってさえいれば
仲良く友達と遊んでる
小学生だね
と大人たちは思っているだろう。
残念だが、缶蹴りに参加しても
俺は缶を蹴ることもなく
缶の代わりに蹴られた側の人間だ。
今思い返してみればあれは
れっきとした いじめ
というものだな。
おい山田
あそぼー
俺は、7階に住んでる山田の家のチャイムを
鳴らした
母親が出てきた
「太郎はくもんに行ってるの」
なんだくもんか
じゃあ山田ママ
遊んで!!
俺は無邪気に母親に遊んでもらおうとした。
「にっちけねせ」
と、山田ママは叫んで
激しくもあり閉めた。
にっちけねせ?
俺の頭の中は
なにかエッチな言葉だろうと
もすもすしてた。
ドアの前でただずむ
幼き頃の俺、
ちょうど7階に住む
通称妖怪ババアと呼ばれていた
ギネバァが習い事のバレーから帰ってきたところで
俺と目があった。
ギネバァは、ブルマ姿でバレーボールを両手に持ちながら
俺に猪突猛進
俺達の間で都市伝説可されてた
ギネバァと目があったら3秒以内に逃げないと
恐ろしいことが。。。
的な話が
まさか本当に起こるとは
つゆ知らず
俺は、闘牛の如し迫りくる
ギネバァに
足が竦み
その場にへたり込んでしまった。
そっからの記憶は、数年前に
地元へ帰省した際に
山田から聞いた。
山田は、くもんになんか行ってなかったし
あのときも
どのときも
ドアについた新聞受けから
毎日、遊びの誘いにくる俺を
観察してたそうだ。
遊びたかったけど
どうやら山田ママが
俺と遊ぶことは、禁止にしてたらしい。
その点については、俺も薄々わかっていながらも
追求しなかった。
ここからは山田の語りべはいります
あの時本当すごかったよなぁ
あれよあれ
ギネバァがお前めがけてタックルしてさあ
お前、めっちゃ飛んで
新聞受けの小さい穴から見えなくて
急いで出たら
お前、もう俺の前からいないのよ
でさ、どこにもいないから
やっと会えたと思ったら
今目の前のお前の遺影に向かって俺
しゃべってんだわ。
俺は、
俺は、お経の声で暗い箱の中で
山田の声が聞こえた。
それが8月31日の
俺の葬式でのお話であった。
にっちけねせ!!!